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お金で隠されるプライバシー

お金で隠されるプライバシー

 

そうですね。2〜3年後です。まだ結婚もしていなかったので、最後の冒険旅行の気持ちで行きました。
 

牧野: 

その後、ニューヨークに行きましたよね。
 

河西: 

なるほど。
 

都築: 

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〈Daydream〉より
©︎ Tomoaki Makino, courtesy  KANA KAWANISHI GALLERY

海外の方は家を見せたがる方が多いですよね。さあ見てちょうだいという感じで、日本とは少し違うかも知れません。日本は見せたくないものを隠すというところに面白さがありましたけど、海外は私を家ごと見てという感じでした。
 

牧野: 

あとはこのニューヨークでモデルになってくれた方は、日本版に比べて暮らしのレベルが相当高い人が多くなかった?
 

都築: 

まあ、そうですね。色々な方がいましたけど、かなりレベルの高い方もいました。
 

牧野: 

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〈Daydream〉より
©︎ Tomoaki Makino, courtesy  KANA KAWANISHI GALLERY

この方は、画家を家に呼んでこの壁を描かせたんですよね?
 

河西: 

そうです。このテーブルセッティングも執事がしてくれるそうです(笑)。
 

牧野: 

沢山の部屋を撮ってきて思うことは、お金持ちの家って大体つまらないんだよ。なぜつまらないかと言えば、お金って自分のプライバシーを隠す道具なんだよね。つまり、狭い部屋だとその人の生活って絶対に出てしまうわけ。例えば東京版だと、普段どんな服を着ているのか分からなくても、鴨居に下がっている服を見ればその人の着ている服とか分かるじゃない。冷蔵庫の上を見ると、普段どんな食事をしているのかも分かってしまう。一方、お金持ちだと巨大なクローゼットがあるわけだし、そういう自分のプライバシーをお金によって隠していくっていうことがあるんだよね。お金持ちになるにつれて、どんどんパブリックな空間になっていくし、誰が来ても誰に見せても大丈夫なわけ。だから、お金持ちの家を個性的に見せるのってすごく難しいよね。
 

都築: 

この生活が見える感じが面白いですよね。
 

牧野: 

そうね、これがギリギリの線くらいじゃないですか?
 

都築: 

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〈Daydream〉より
©︎ Tomoaki Makino, courtesy  KANA KAWANISHI GALLERY

この後に、台湾ですよね。
 

河西: 

そうです。色々と小細工したいお年頃だったので、2枚撮影して並べているのですが、それぞれ別のポーズを取ってもらいました。縦位置で2枚撮っているだけで、合成ではないです。
 

牧野: 

なるほど。
 

都築: 

片方は他所行きの服を着ていただいて、もう片方は普段着を着ていただいています。
 

河西: 

部屋とおばさんの情報量を上げたかったので色々と試していました。
 

牧野: 

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〈Theater〉より
©︎ Tomoaki Makino, courtesy  KANA KAWANISHI GALLERY

これも台湾の中では、中流以上でしょ?
 

都築: 

台湾って同じアジアで、かといって日本とは違うという絶妙なところがありますよね。ニューヨークと、東京と、両方の感覚が混ざっているような感じがします。
 

河西: 

まあ、台湾は木を掘った家具が好きだなという感じです(笑)。大体、椅子や箪笥に龍とかが掘られているんですよね。
 

牧野: 

そうですね(笑)。
 

牧野: 

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〈Theater〉より
©︎ Tomoaki Makino, courtesy  KANA KAWANISHI GALLERY

まちをたぐる

まちをたぐる

 

前作の台湾からはどれくらい時間が空いているんですか?
 

都築: 

そして、いままでポートレートばかり続けていた牧野さんが、新作を出されたということで見せていただいたのがこの電柱と電線のシリーズです。
 

河西: 

風景のシリーズは初めてだし、モノクロも初めてだし、デジタルで撮るのも初めてです。今まで作品は全てフィルムで撮っていました。撮影した画像にGPSを埋め込めるGPSロガーを見つけて、それに心惹かれて何かしたいという気持ちもあり、電柱の存在には昔から興味があったので、GPSと一緒に街を歩いてみようかという気持ちではじめました。
 

牧野: 

じゃあ、作る側からしたら3〜4年経っているんですね。
 

都築: 

台湾の最後の撮影は2017年で、展示したのは2019年です。
 

牧野: 

フィルムからデジタルに変わったというのは何があったんですか?
 

都築: 

この新作の構想は10年前くらいからありましたよね。
 

河西: 

電柱のシリーズはそうですね。昔から面白いとは思っていたのですが、おばちゃんを続けていたので何か新しいシリーズを始める気持ちはなかったんです。
 

牧野: 

なるほど。ここからデジタルを使ったのはそういうことで、じゃあ敢えてモノクロにしたのはどういうことなんですか?
 

都築: 

GPSのロガーと一緒に撮影していたので、歩いたところがそのままマッピングされて、撮影した写真にもGPSが埋め込まれていきます。電信柱は、無くなる可能性ももちろんあるので、どこにあったのかという記録という意味もあり、デジタルで撮影をはじめました。
 

牧野: 

撮影はカラーで撮っているのですが、色の情報に目がいってしまって電柱と電線が作り出す幾何学模様のような入り組んだ状態が目立たなくなってしまうということが一つの理由です。それと日の光の影響などで、電柱や電線の色味が若干違うことが気になったこともあり、一律でコレクションすることができるのでモノクロを選びました。
 

牧野: 

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Kameido 35° 42' 18.528" N 139° 49' 22.248" E
2021 | archival pigment print | 460 × 690 mm | ©︎ Tomoaki Makino, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

発表するものが今までと方向性が違うので、2020年の世の中の変化もありこれと向き合わざるを得なかったんですよね。
 

河西: 

単純に時間があったということです(笑)。闇雲に歩く機会って中々ないですからね。何か仕事があったら仕事先から5駅分歩いて帰るとか、赤羽の立ち飲み屋をゴールにそこまで歩いてから呑むとか、そういう設定をして自分なりに歩いていました。
 

牧野: 

世界中の都市の他人の家に上がり込みなんてとてもできない時期でしたからね。
 

河西: 

電線は、なぜ好きなんですか?
 

東日本大震災の影響で原発のトラブルなど、電力供給先について問題になったことがありましたよね。そのことがきっかけで意識するようになりました。改めて見てみると、僕が住んでいる高田馬場のエリアや、事務所がある文京区の周辺なども、結構電柱が多く立っていて、こんなにぐちゃぐちゃなものがあったんだとその時に気づきました。初めはフィルムカメラで撮影していたんですが、何か違うなと思いそのまま放置して数年が経ち、デジタルで再開しました。

電柱がなぜ好きかというと、単純に存在が面白いなと思ったからです。歴史的な建物があっても、その目の前や周辺至る所に電柱が立っているんですが、日本人は無意識的に無視する目線になっているんですよね。電柱や電線が邪魔でも、自動的に無視するフィルターが付いているのかなと思うくらいの無自覚っぷりなので、その存在が面白いなと思ったのが大きな理由です。ただ、電信柱が好きというのではなく、電信柱が街の中に存在しているということが面白いんです。おばちゃんシリーズで言うと、電信柱がおばちゃんだとすると、部屋が街という関係で、電信柱を撮っているけど、街の情報も入ってくるというのが面白いなと、撮影していて思ったことです。

 

牧野: 

都築: 

電柱が好きなの?電線が好きなの?
 

両方ですね。電信柱と電線が作り出す幾何学模様が好きですね(笑)。
 

牧野: 

都築: 

電柱とおばちゃん

電柱とおばちゃん

 

少し前に練馬区立美術館で開催していた「電柱絵画展」は見ました?
 

さっき河西さんとその話をしていました。電柱の存在をポジティブに捉えている時代の作品ですよね?
 

牧野: 

都築: 

なるほど。
 

河西: 

昔は、電柱は「文明開化」の象徴だったわけじゃないですか。電線が通っている場所は近代化が進んでいるという良い意味の象徴でしたよね。そこから長い時が経って、今では高級住宅街から電柱が地中化されていて、美学から言えばこれは「ネガティブ」なものの象徴ですよね。だけど、どこにでもある。その意味ではおばちゃんみたいですよね。世の中的には「女」というのは20代前後の綺麗で可愛い女の子を指すわけで、50代くらいは風俗などで「熟女」というフィールドが確立するまでは「終わった人」ですよね。だから、その熟女と電柱の共通点を僕はすごく感じましたね。
 

都築: 

今はAV雑誌でも「熟女」って言葉が付けばなんでも売れるんですよ。まあ、牧野さんが撮っているのは、今の基準の熟女ではないけどね。「超熟」だよね(笑)。
 

熟女ってもっと若い人を指すんですか?
 

牧野: 

都築: 

熟女枠っていうのは、風俗業界でいうと大体30代ですよね。だからこの方々は皆さん「超熟」の部類に入るわけです。
 

そういう目線では見てないですけどね(笑)。
 

牧野: 

都築: 

そうだよね。そうなんだけど、こういう人たちは昔は性的対象には見られていなかったわけじゃないですか。だけど世の中には実はいっぱいいるものですよね。だから電線のあり様にとても似ているなと、見ていて思いましたね。

僕も東京の電線を見ていてごちゃごちゃしているなと思いますけど、東南アジアに比べたらこんなもの序の口じゃないですか。ベトナムでは、もっと酷い状態の場所もたくさんありますよね。蜘蛛の巣のように電線が入り組んでいるところから、さらに勝手に電線を増やして電気を盗んでいる人たちもいるわけだし、それに比べれば東京はよほどスッキリしていると思うけども、それでも先ほど牧野さんのお話にあったようにフィルターをかけて、大体の方は電線をなかったものとして風景を見ていますよね。

だから、牧野さんは大体の人がないものとして見過ごしているものに目がいってしまうのかなと勝手に思いました。だって電柱がある風景なんて、綺麗でもないし見慣れたどうってことない景色じゃないですか。

 

そうですね(笑)。
 

牧野: 

都築: 

これまでの熟女シリーズでも、ものすごく綺麗な熟女が出てくるわけではないですし。そこが今回のモノクロで余計に強調されているかも知れませんね。時代も分からなくなっているし、本当ならば色が出ることによってもっと綺麗な風景もあったかも知れないですけど、それらが色を失って、一様に生き生きとした感覚がなくなっているように感じますよね。
 

都築: 

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Shinjuku 35° 41' 35.814" N 139° 42' 18.486" E
2021 | archival pigment print |  460 × 690 mm
©︎ Tomoaki Makino, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

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Akabanekita 35° 47' 6.81" N 139° 42' 24.642" E
2021 | archival pigment print |  460 × 690 mm
©︎ Tomoaki Makino, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

今回は歩いて撮影しているんですよね。
 

河西: 

そうですね、夏はかなりキツかったです(笑)。春夏秋冬と色々なシーズンを歩いてきました。
 

牧野: 

それぞれの土地によって色が違いましたか?
 

河西: 

蒲田は結構面白かったですね。商店街や居酒屋さんがたくさん並んでいるところだとか、アジアに続く雰囲気があり良い風景でした。蒲田だけで1つできるんじゃないかと思うくらいのボリュームゾーンでしたね。逆に中央区、千代田区は色々歩きましたけど中々見つからなかったです。
 

牧野: 

そうですね。僕は千代田区ですが、電柱も電線もほとんどないですもんね。
 

あと意外なところだと、アメ横は電線が立っていないんです。期待して行ったのですが、全然なくて驚きました。
 

牧野: 

都築: 

電柱は徐々に地中へ埋められていくものなんですよね?
 

河西: 

一応、東京都は全体の8%が地中化されていると言われています。コストがかなり掛かる点と、大通り以外の一本奥に入った通りは様々な問題が重なって難しいようです。なので、僕が死ぬ頃にどれだけ減るのか、結局ほとんどが変わらないままなのか、といった感じです。一応、電柱の地中化計画*4については調べたのですが、何十年も前から始まっていても中々進んでいない状況のようです。
 

牧野: 

なぜ蒲田に多いんだと思いますか?
 

闇市が元になって街を作っているからですか?ゴールデン街もそうですけど、商店街も入り組んだ作りで、まあ汚いですよね(笑)。
 

牧野: 

都築: 

アメ横は1番大きな闇市だったからね。まあでも、千代田区の真ん中みたいな街と、蒲田のような街と、日本にどちらが多いかというと絶対に蒲田のような街が多いですよね。つまり、日本にはミニ蒲田のような街が沢山あるということです。言い方を変えると、経済的に見れば世界第三位の経済大国の日本は、まだこれだと。だから「世界の蒲田」が日本なんじゃないかと思うんですよね。
 

都築: 

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*4  電柱の地中化計画:無電柱化は、昭和61年度から3期にわたる「電線類地中化計画」、平成11~15年度の「新電線類地中化計画」、平成16~20年度の「無電柱化推進計画」に基づき、整備を行っている。
https://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/genjo_02.htm

脚注

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