牧野智晃個展『まちをたぐる』開催記念トークイベント

都築響一氏 × 牧野智晃

日 時: 2021年6月25日(金)19:30〜

会 場: YouTubeライブ配信

登壇者: 都築響一氏× 牧野智晃(進行:河西香奈)

 

〈はじめに〉

 

ご視聴ありがとうございます。現在開催しております牧野智晃さんの個展『まちをたぐる』を記念してトークイベントを始めたいと思います。どうぞ宜しくお願いいたします。
 

河西: 

牧野: 

よろしくお願いします。
 

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個展『まちをたぐる』展示風景

©︎ Tomoaki Makino, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

よろしくお願いします。

河西: 

まず牧野さんについてご紹介させていただきます。牧野さんは写真家で、2005年に発表した〈Tokyo Soap Opera〉で「木村伊兵衛写真賞」にノミネートされました。〈Tokyo Soap Opera〉は、東京で生活をしている中年女性をそれぞれの生活空間で撮影をした作品なのですが、そのニューヨーク版となる〈Daydream〉を2011年に、台湾版の〈Theater〉を2019年に発表されています。本展では、それらのシリーズとは全く違う新作で、東京23区にある電柱と電線のある風景を撮りためた作品を発表されています。そして、今日のトークイベントには、都築響一さんをゲストとしてお呼びしております。どうぞ宜しくお願いします。
 

都築: 

都築さんは、写真家であり、編集者、ジャーナリストとしても活動されていらっしゃいます。創刊期の「POPEYE(ポパイ)」や「BRUTUS(ブルータス)」などでは編集者としてご活躍され、その後、生活感あふれる東京の居住空間をまとめた『TOKYO STYLE』という443ページのかなり厚い本を出版。また、日本全国の秘宝館や変わった博物館などを撮影した『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』(筑摩書房)では木村伊兵衛写真賞を受賞されています。暴走族、デコトラ、ラブホテルや、東北地方の農民が継ぎ足した民族衣装、東京中のバーなど、それまで光が当てられることのなかった無名の人々の生活を通して現代の日本社会を描くことを続けていらっしゃいます。
 

河西: 

ありがとうございます。

都築: 

ROADSIDERS’ weekly*1」という有料のメールマガジンも週刊で刊行されていますよね。10年ほどになりますか?
 

河西: 

そうです。2012年からなので、もうすぐ10年ですよね。

都築: 

今回のイベントゲストを都築さんにご依頼したのは、牧野さんの〈Daydream〉の帯を書いていただいた繋がりからです。
 

河西: 

牧野: 

ありがとうございます!
 

いえいえいえ(笑)。

都築: 

河西: 

BEAMSさんの「B GALLERY」でもご登壇いただいたということもあり、ご縁があるなと感じて私の方から牧野さんへご相談させていただき、今回ご依頼させていただいたという経緯があります。記憶を辿ると、お二人にはパンチの効いたエピソードがあったなと思い出しました(笑)。
 

え、何だっけ?書評の話ですか?

都築: 

今回、実家の母に連絡して写真を撮ってもらいました。こちらです。
 

牧野: 

ほうほう。ああ、これね(笑)。

都築: 

 

朝日新聞と週刊文春

 

河西: 

牧野さんとはギャラリーを始める前からの友人なのですが、週刊文春に牧野さんの1冊目の写真集のことが掲載されていて、非常に驚きました(笑)。ことの経緯をご説明しますと、都築さんは7年間ずっと朝日新聞に書評を連載されていて、取材費なども自前で、興味の湧く本を見つけては書評をするという活動を続けていらっしゃいました。次は牧野さんの〈Tokyo Soap Opera〉をご紹介いただけるとなった時に、朝日新聞の担当者から文言についてご指摘があり、掲載が叶わなかったという事があったそうです。朝日新聞に載るはずだった書評が週刊文春に掲載されていまして、内容が非常に面白いのでぜひ一部を読ませていただきます。

「わざわざ遠くの国に来てるのに、昼間っからホテルの部屋でボーッとテレビを見たりする。どこの国でも、国民性をもっともよく表現しているのは、立派な教養番組ではなく、極限に陳腐な連続ドラマのほうだ。
アメリカではソープオペラが、日本では昼メロが、むせかえるほどに濃厚な日常の真実を開陳しているが、『トーキョーソープオペラ』は1980年生まれの若い写真家が、自分の母親世代の熟女達に昼メロのヒロインを演じさせた、おぞましくも見入らずにいられない異色写真集だ。
小指を立ててマイクを握ったり、スナックでカラオケを絶唱する、あの場違いな、度を越した没入感覚。それが真昼の居間に置かれたぶら下がり健康器や、台所の流しや座敷の畳を相手に、本気度100%で再現されている。やらせた写真家もすごいが、なんの疑いも持たずに(たぶん)、嬉々として(たぶん)ヒロインになりきっている116人の熟女たちもすごい。からだもそうだが、こころも熟しきってる感じだ。
日常であることと、劇的であること。いちばんかけ離れたものが、いちばん思いがけない場所で出会うスリル。醜さと美しさに満ちた、場末のドラマがここにある。

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週刊文春(12月号, 2005年)

何回か言ってますけど、「新聞の書評」というのは書評とは言えないというか、新聞も週刊誌も大体が700字〜800字なので、ただの紹介にしかなれないという感じなんです。その中で、なるべく光の当たりにくい小さな出版社から出ている、地方の書店ではなかなか見つけにくいものを紹介できたらと思って、当時はその思いから続けていました。だけど、別に編集部からこれを書いてくださいと依頼が来るわけではないので、書評を書くための本も自分で買わないといけないし、700字〜800字だと原稿料も微々たるものだし、正直言って経済的なメリットはゼロなんですよね。その中で、牧野さんの写真集について書いた時は、担当編集者から「おぞましく」という言葉は止めろと言われてしまったんです。

都築:

そう。「おぞましく」というのは誉めるために使っていたんですけど(笑)。担当者になぜダメなのか理由を聞いたら、読者に不快感を与えかねないということでした。仕方なく「あやしくも」はどうかと話したら、それは余計に悪いということで揉めにもめて、結果、連載を辞めることにしました(笑)。そのことを伝えると、朝日という大きな仕事を辞めるのかと非常に驚かれ、その言葉にまたカチンと来ました(笑)。当時の週刊文春の編集長が、以前に別の週刊誌で、担当編集者だったという繋がりがあり仲が良かったんです。それで、朝日新聞との一連の話を電話して、このことについて書かせてもらったのがこの記事です。まだ「文春砲」となる前でしたけどね。ちょこっとですが書かせてもらったことで、この件を知ってくれる方もいて、別の朝日新聞の方からこんなことがあったのかと沢山電話がかかってきました。

でもその言葉がないと成り立たないですよね。

河西: 

都築:

そうだったんですね。

河西: 

こちらとしては楽しいエピソードなんだけれどね。編集者人生でも途中でぶつかって切られるということは何度も経験しているので、動揺もしないし、ちょっと良い話なんです。意識が高い系の人達に引っかかる何かが、牧野さんの写真にはあったのかなという気がしますね。

都築:

ありがとうございます。
 

牧野: 

余談ですが、この記事を読み直して思ったのは、牧野さんの書評が朝日新聞に載らなかったことも残念でしたけど、本当に残念だったのは牧野さんの後に乗るはずだった方々ですよね。

河西: 

都築:

そうなんですよね(笑)。

 

Tokyo Soap Opera

〈Tokyo Soap Opera〉は牧野さんの初めての写真集だったんですよね?僕はともかく、他の方の反応はどうだったんですか?

都築:

そうですね。一応、いろいろな女性系の雑誌などに取り上げていただきました。
 

牧野: 

女性系の雑誌って何?

都築:

女性雑誌の編集の方々が取り上げてくださったんです。あとは、ロンドンで展示*2もさせてもらいました。家の内装などから垣間見えるこのある種のおばちゃんカルチャーなどが、文化を飛び越えて1周回って面白く伝わったのか、その個展について雑誌でも取り上げていただきました。ただ、少し違った形で取り上げられていて、2つ掲載いただいた内の1つには、「日本もオシャレになってきたな」という内容が書かれていました(笑)。もう1つはきちんとした内容で掲載されていたのですが、そっちは少し小馬鹿にしたようなニュアンスの内容でした。でも載っただけで、僕としてはとても嬉しくはあったんですけどね。
 

牧野: 

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〈Tokyo Soap Opera〉より
©︎ Tomoaki Makino, courtesy  KANA KAWANISHI GALLERY

牧野さんはこの写真集を出して、意地悪だなって言われたことなかった?

都築:

これをさせてしまっているという点では、そう受け取られることもあるかも知れませんが、僕としては意地悪という気持ちではやっていないんですけど。
 

牧野: 

都築:

牧野さんにそのつもりがないのは分かっているけど、見ている人が、おばさんをおもちゃにしてという受け取り方をして、意地悪な反応をする人はいなかった?

ありますよ、この写真集を出すという直前で、モデルをしていただいた方とトラブルになったこともあります。タイトルが〈Tokyo Soap Opera〉なので、「ソープ」という言葉がいやらしいということで連絡をいただき、僕としては「ソープオペラ*3」で一つの単語なのでと説明もしたんですが、一悶着あり結局その方には出ていただけませんでした。
 

牧野: 

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〈Tokyo Soap Opera〉より
©︎ Tomoaki Makino, courtesy  KANA KAWANISHI GALLERY

なるほどね(笑)。なぜその事を聞いたのかというと、僕も最初の写真集の『TOKYO STYLE』を出したときに、そういった反応が沢山あったんですよね。もっと綺麗な家は沢山あるのに、なぜわざわざ狭くて汚い家を出すんだと、日本人からとても言われました。海外の方は面白がるんだけど、日本の偉い人たちから言われましたね。こちらとしては、良い意味で撮ろうとしているんだけど、それが伝わらないというか。その後に出した『珍日本紀行』の時はもっと言われました。

本って「読者感想はがき」みたいなのが付いているじゃないですか、あれってあまり返ってこないんだけど、その時に返ってきたはがきで未だに覚えているのですが、カメラはこういう汚いものを撮るための道具じゃないと書かれていたんです(笑)。めっちゃ力付けられたというか、いつかこいつを黙らせてやるという気持ちでやってきたんです。僕としては、地方の不思議な風景などを違う形でポジティブに見せたかったんだけども、それがどうしても伝わらないんだなというもどかしさがすごくありました。だから、牧野さんも同じような思いをけっこう抱いたのではないかと、とても思いましたね。
 

都築:

当時、僕は若かくて「これ良いでしょ」という感覚だったので、そう言ったネガティブな反応を気にしていなかったというのはあるかも知れません。「この感じ面白いじゃん」だけでやっていたので(笑)。
 

牧野: 

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*1  ROADSIDERS’ weekly:都築響一が運営する有料メールマガジン

 https://roadsiders.com/

*2  牧野個展「AFTERNOON」museum52(2005年, London)

*3  ソープオペラ:アメリカでは、石鹸メーカーがCMスポンサーになることが多かったため、昼に放送された「通俗的な連続メロドラマ」をソープオペラ (soap opera) と呼ぶ。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%BC%E3%83%89%E3%83%A9

 

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