岩根愛個展『ARMS』

石内都×岩根愛対談

思いがけず、写真に写るもの

 

 

次はお二人に対して「撮影した時には思いもよらなかった何かに、現像後気づいた事で印象深い事はありますか?」という質問です。

 

私はフィルムで撮っているから、撮影した時点では何が写っているかがわからないし、「一枚だけきちんと写っていれば良い」と思っているので、撮影はなるべく短い時間で行い、シャッターを押す回数も少ないのですが、現像したときに「念写」のような、「あれ、これはいったい何だろう」と初めてわかることがよくあります。

 

例えばフリーダ・カーロの遺品は、現在は博物館になっている彼女の「青い家」の中庭でホリゾント*3に乗せて撮影したのですが、現像したら「なんだこの木漏れ日は」と初めて気づくことがあって。撮影時に木漏れ日があったはずですが、そのときは特に意識していなかったんですが、その写真を見ると、「フリーダが上から見ていたのかな」と思ったり。そういうことって、現像しないとわからないことですよね。

 

フィルムの面白さは撮影と現像に時間差があることで、その時間にはドキドキさせられるけれど、その時間を楽しむようにしています。何も写っていないこともありますが、それは自分自身のせいであり、仕方がないこと。仕事で写真を撮りたくないのは、そういうことが言えないから。だから私は仕事しないの。だって、自分のための写真だけなら、撮りたいものが写っていなくてもいいから。

河西: 

石内: 

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《Frida by Ishiuchi#36》|《Frida by Ishiuchi#4》

©︎ Ishiuchi Miyako, courtesy The Third Gallery Aya

岩根: 

石内: 

岩根: 

石内: 

岩根: 

石内: 

岩根: 

フリーダの遺品の写真がそのようにして撮られたとは知らなかったので驚きました。

 

撮影しているときは慌てているから、周りをあちこちは見ないの。だから、まさか木漏れ日がああいう風に写っているとは思ってもいなかった。

 

「メキシコの現像屋はいい加減だから、現像は日本でするように」と周りに言われていたけれど3週間も現地に滞在していたし、出来上がった写真を見ないと先に進むこともできないから、とりあえず撮ったものを現像して、確認していました。現像でのトラブルはあったような、なかったような感じでしたけど。そうして現像した写真を見たとき、自分が撮ったものなのに感動して涙が出てきてしまって。

私も写真集を初めて見た時、涙が出てきましたね。

 

ありがとう。岩根さんも同じような経験をされていると思うけど、写真を撮る中で、計画や思い込みにはない偶然が起こることはたくさんあって、現場の空気感みたいなものまでは計り知れない。例えば匂いや音だったり、現場に自分が立ったときに感じたことはもちろん目には見えないけれど、写真には写るものだと思っています。

自分がボンダンスを撮り始めた頃は、やみくもに撮りすぎて、最終的に写真集を作る際に10万点の写真からセレクトしているのですが・・・

 

10万点? そんなに撮ったの?

そうなんですよ。全部の写真を見たとき、気持ち悪くなるくらいでした(笑)。最初はボンダンスをとにかくたくさん撮っていましたが、フクシマオンドを意識し始めてからは「唄が海を渡っていった」ということを強く感じるようになりました。それ以来、脈々と受け継がれてきた唄が今自分の目の前にあることを、どうすれば写真に表せられるだろうかと考えながら撮影したのですが、写真集に載っている写真は、そうしてライティングなどの試行錯誤を繰り返す中で見つけた方法で撮られたものです。

 

木村伊兵衛写真賞の受賞を機にインタビューを受けるようになり、「活動を始めた頃に影響を受けた写真家は?」という質問をされたことで思い出したのですが、私がアメリカ・カリフォルニアの田舎にある高校にひとりで行った時、学校の図書館にあった『World Photography』という世界の写真家の作品が数点ずつ掲載されている本を目にして、その中にあったのが内藤正敏さんの〈婆バクハツ!〉でした。

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石内: 

岩根: 

内藤正敏《お籠りする老婆 高山稲荷》

©︎ Masatoshi Naito

 私も内藤正敏さんすごく好きです。

 

先ほどの「写真家になろうと思った時は?」という質問への回答にもなると思うのですが、初めて写真家という職業を意識するようになったのは、内藤さんのその写真を見た時でした。インタビューでそんな質問に答えながら、『KIPUKA』で用いたライティングは内藤さんの〈婆バクハツ!〉と同じだということや、内藤さんも盆踊りを撮っていたことに後々になって気がつきました。

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『KIPUKA』より

©︎ Ai Iwane, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

石内: 

岩根: 

河西: 

内藤さんは、ノーファインダーでストロボを使っているよね。

そうですね。大きなストロボを焚いて撮ってますよね。

 

そろそろ会場の皆さんから質問を募りたいと思いますが、どなたかご質問されたい方はいらっしゃいますか?

「ハワイのアーティストとのつながり」、「写真のこれから」

 

岩根さんがハワイで製作されている時に、現地の作家さんとお話をされたり、岩根さんと同じようなテーマで作品制作している作家さんとの交流はあったのでしょうか?

 

私が最初にハワイに通い始めた時、日系二世の方々にインタビューをして、ポートレートを撮るところからスタートしました。なのですが、その頃にブライアン佐藤というカメラマンが撮影した日系二世のポートレートの写真展の情報を見て、彼らのポートレートを撮る理由という面でも、フットワークという面でも「彼には絶対敵わないな」と思って。それが、12年間やみくもに撮るなかでの悩みの一つでもあったのですが、そのうちある時ブライアンとはラハイナ浄土院でお会いする機会があり、それ以来彼とは親友です。ブライアンは二世の目に映る一世を撮っているというか、実直に彼らと向き合ったポートレートを撮っています。ハワイにいる写真家の友人といえば、彼ですね。

岩根: 

客A:

 
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©︎ Brian Y. Sato

客A:

岩根: 

河西: 

石内: 

岩根: 

石内: 

先週6月2日に、本屋B&Bで「ホクレア号」のクルーだった内野加奈子さんとトークイベントをしたのですが、彼女もまた写真を撮っています。「ホクレア号」は古代カヌーなのですが、アフリカから始まった人類拡散の歴史の最後の方にハワイに人類が初めて渡ったとされ、そのカヌーで星を目印に航海するという古代的な方法で行われたとされています。その航海法を復元した船が「ホクレア号」で、初の外洋航海が2007年に行われ、日本では沖縄などに寄港しました。その際、加奈子さんはクルーの一員として乗船していました。彼女とはよくお会いしていますね。

岩根さんが扱われるテーマは、同年代の日系四世のアーティストたちが取り組んでいてもおかしくないと思うのですが、そういった方々と交流されることはありますか?

 

ハワイ大学マノア校にある芸術学部の教授で、ゲイ・チャンさんという方がいます。ハワイに行く際に彼女とはよくお会いして、写真を見てもらったりお話を聞いたりしています。ハワイはたくさんの移民によって形成されているので、ハワイ大学では民俗学などの研究が進んでいますし、ハワイ全体にも環太平洋の交流をテーマに活動するアーティストも多いですね。

事前に頂いていた質問の中から伺いたいのですが、石内さんが考える「写真のこれから」はどのようなものでしょうか?

 

写真には可能性がたくさんあると思います。まだまだ歴史をつくり上げている途上に私たちがいるというのが今の現実ですよね。いろいろな未来の可能性があるけれど、写真は本当に自由なものだから、何をやってもいいのだと思います。私は学校で写真を学んだわけではないから自分の好き勝手にやってきたけれど、その結果としてわかったのは「写真にこだわる必要がない」ということ。写真を撮っていても、いわゆる今までの写真の価値に捉われなければ新しいことができる可能性がまだまだあって、写真の未来は大いにあると私は思います。

今後の展覧会など、石内さんの今年の活動はどういう予定でしょうか?


直近でいうと、奈良市写真美術館で6月22日から(9月1日まで)「布の来歴―ひろしまから」というタイトルで個展を行います。(詳細:http://irietaikichi.jp/news/exhibition/300)今回は、広島で出会った布たちからはじまった、私の制作の歴史の中での「布」がテーマです。大学で染織を専攻していたこともあり、私個人の布に対する考え方が少なからずあり、〈ひろしま〉からはじまった私の「布の来歴」が展示されます。

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岩根: 

河西: 

9月からはニューヨークのファーガス・マカフリーというギャラリーで大きな個展をやりますが、そこではビンテージの作品から〈Frida by Ishiuchi〉、〈Mother’s〉、そして〈ひろしま〉を展示します。あともう一つ個展として、ちひろ美術館・東京でいわさきちひろの遺品を撮影した新作を発表します(「ふたりの女の物語 都とちひろ」、2019年11月1日~2020年1月31日、詳細:https://chihiro.jp/tokyo/exhibitions/73941/)。岩根さんは?

先日5月2日までニコンプラザ新宿で開催していた、木村伊兵衛写真賞受賞記念展がこれから大阪に巡回します(6月13日~6月19日)。あとは、秋にシカゴでのレジデンスに参加します。それは現像に関するレジデンスなのですが、ようやく設備の整った暗室が使い放題の環境で制作することができるので、この機会に大きなプリントを作ってこようと思っています。

 

それでは、ここでトークイベントはお開きとさせていただきます。石内さん、岩根さん、そしてお越しいただいた皆様、本日は本当にありがとうございました。

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*3( ホリゾントとは、舞台やスタジオで使われる背景用の布製の幕または壁、またそれを照らす照明のこと。(wikipedia より)

 

 文・編集/折笠純、校正・文責/河西香奈(KANA KAWANISHI ART OFFICE)