表良樹個展『等身の造景』開催記念 トークイベント
河口龍夫 × 表良樹
「等身大からの精神の背伸び 」
日 時: 2019年5月25日(金)18:00〜
会 場: KANA KAWANISHI GALLERY
登壇者: 河口龍夫(現代美術作家)× 表良樹(現代美術作家)
〈Turbulence〉と〈Tectonics〉
今日はお越しいただきありがとうございます。今回、表良樹さんの個展『等身の造景』のクロージングトークとして河口龍夫さんをゲストにお招きし、表さんとの対談を開催させていただきます。今回のトークタイトル「等身大からの精神の背伸び」は、表さんの制作の根幹にある「等身大」というキーワードに河口さんが目をつけられ、そこをきっかけに河口さんの「芸術活動は精神の背伸びである」という考え方から名付けられました。まずは今回のトークが実現した経緯を表さんからお話いただければと思います。
河西:
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表:
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河口:
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今回トークイベントをするにあたり、対談相手をすごく悩みました。東京藝大大学院を修了後3年間助手を務めて、やっと今作家としてスタートラインに立てたかなという段階なのですが、今までのことを振り返ったときに、自分が京都造形芸術大学の学部生の時に先生から大きな影響を受けたのを思い出し、「河口先生にお願いしたい」と河西さんに希望を伝えました。まさかこのような機会が叶うとは思っていなかったので半分冗談でしたが、SNOW Contemporaryで河口先生が個展を開催される際に河西さんがカタログの翻訳をされていたという繋がりもあり、双方からご依頼をさせていただいたところ、ご快諾いただけて実現しました。
私と富田直樹さんで、表さんを説得する形でしたね。「遠慮なくお願いしてみた方がいい」と。
まさかお越し頂けるとは思っていなかったので、本当に嬉しいです。
今回のような依頼って、断りづらいよね(笑)。表くんとは京都造形芸術大学で知り合ったわけですが、その当時は私が先生で彼が学生という立場でのつながりでした。でも今日は芸術家と芸術家として話ができるということで、それを楽しみに来ました。
恐れ多いです。(笑)まずは今回の展示で発表している作品についてお話させて頂ければと思います。『等身の造景』というタイトルで、僕にとってほぼ初めての個展です。まず、入って正面にある大きい立体作品がインスタレーションとして置かれていて、メインブースの両側に〈Turbulence〉という平面作品が置かれています。こちらが、僕が修了と同時期から4年間ほど続けている〈Tectonics〉というシリーズです。
Tectonics_drums #1
2019 | polyester resin,oil | size variable
©︎ Yoshiki Omote, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY
この作品は、ポリエステル樹脂という液体状のプラスチックに油絵の具を混ぜて重ねて作っています。技法としては、その素材をポリバケツなどの既成品の容器、この場合は200リットルのポリドラムの型を取って、その型に対して口を開けてそこに樹脂を流し込み、横にして回転させ、また流す。そうすると樹脂が流れていって、均等に塗布されていく。それを固めていくことをずっと繰り返し、最終的に無垢の状態になったら、そこに落下させている映像もありますが、地面に落下させて、割って、それをまた空間に再構築させて制作しています。奥の空間にも〈Tectonics〉のシリーズがありますが、そちらはペットボトルのような小さなサイズのポリタンクを使っています。
なぜポリタンクなのかと申しますと、きっかけは僕が大学院の時に自分で借りてたアトリエで、アトリエに沢山あった石とポリタンクを使った作品を制作していたのですが、石はこのサイズで数万年もの時間、考えられないほどの時間がかかって作られているんですね。ポリタンクは、石油から人工的に作られている物で、プラスチックも長い時間をかけて作られている。ポリタンクにも潜在的に時間があるのかなと思い、それを鉱物のように時間を遡っていくイメージで作りました。〈Tectonics〉というタイトルは、地殻変動をテーマにした作品です。
そしてこちらが、僕が今回ほぼ初めて発表する〈Turbulence〉というタイトルの作品です。〈Turbulence〉は、乱気流のような大気や空気が乱れることを表した作品です。技法としては、ガラス鏡の上に塗料を噴射しています。普通は塗料を薄く吹いて重ねていく技法なのですが、これは水平にしてなみなみに吹いていって分厚い塗膜を作った上で、また違う色を吹いていく。そうすると最初は綺麗に表面が塗膜ができるのですが、それが1日、2日かけてゆっくり対流していって、流れて混ざって固まっていく。その様子を表した作品です。
Turbulence #2
2019 | glass mirror, urethane, ink | φ1000 mm
©︎ Yoshiki Omote, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY
河西:
表:
今回の展示空間は、空を表した〈Turbulence〉と、大地を表した〈Tectonics〉 、この2つの作品で1つのランドスケープになっています。東から太陽が昇って、西に沈んでいくような、それぞれ昼と夜を表す構成になっています。また造景の「景」がなぜこの漢字なのかというと、僕は日本庭園がとても好きで、学生の頃から京都のお寺などによく行っていたのですが、お寺の庭は限られた空間の中で自然物を使って風景を模して人工的に作っているんです。
河西:
表:
とてもお好きな日本庭園があるとおっしゃっていましたね。
色々とあるのですが、浄瑠璃寺という、平安時代に建てられた京都の浄土庭園がとても好きです。お庭に回遊式の池があるのですが、太陽の動きも計算されて設計されているのです。自然の浄土の風景を表しているのですが、実際にある太陽の風景も含めて計算されている。平安時代に、すでに今に通じる考え方があり、大きな自然に対して敬意を持つという精神に共感しています。
限られたスペースで、自然を取り入れながら、無限の広がりを内包したい、といつもおっしゃっていますね。
はい、そこを考えつつ、今回の構成になりました。
表良樹個展『等身大の造景』展示風景
©︎ Yoshiki Omote, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY
私と河口先生とが知り合うきっかけになった展覧会もいくつかご紹介できればと思います。河口先生は、SNOW Contemporaryさんで4回ほど個展を開催していらっしゃるのですが、そのなかで私は3回程、図録の英訳をさせていただいています。その1つ目がこちらの『時間の位相』という展覧会でした。2016年ですね。ご自身の写真作品の余白部分に、ご自身で鉛筆のドローイングを書き加えていらっしゃる作品です。
河口龍夫と中原佑介
河西:
河口:
補足しますとね、この作品は1970年に東京ビエンナーレのコミッショナーであった中原佑介さんが企画したテーマは『人間と物質展』でした。そこに出品した作品が〈陸と海〉という写真による作品でした。必ず写真にはその写真の「外側」があるはずなんで、その外側を描き加えました。で、この場合は、そこに時間の問題もあります。1970年の写真のその外側を違う年代に描き加えています。この作品は2016年に発表しました。
河西:
河口:
図録には河口先生のステートメントと、光田ゆりさんの論考が寄せられているのですけども、そこには「河口は今、過去の写真作品に現在の時間を繋ぐドローイングを施した。それによって写真の切断面は柔軟に別の時空を呼吸し始め、生気を持って最初とは別の問いを手繰り寄せてくる。」とあります。
うまいこと書くね。(笑)
《「陸と海」からの時相》
1970-2016|写真・画用紙・スチレンボード・鉛筆
©︎ Tatsuo Kawaguchi, courtesy SNOW Contemporary, photo by Sadamu Saito
河西:
河口:
河西:
河口:
河西:
河口:
河西:
河口:
やっぱり時間って、別の次元のものなので、それをこうやって2次元で分かりやすく、しかも写真とドローイングという別のメディウムを自然に繋げていらっしゃるので、ずっと見ていられる求心力のある作品だと思います。
この作品は、僕が住んでいた須磨の海岸で制作されました。長さが5メートルくらいある1本の木から4枚の板を切り出して浮かべてある写真です。材木屋さんに「丸太から切り出したい」って言ったら、高くなるから辞めた方がいいよって言われたんですけど。いや、どうしても同じ木から4枚を切り出したいと言って、材木屋さんを説得するのが大変でした。それで、干潮と満潮を観察して、丁度中間点に4枚の板を並べて、流れないように養生したんです。
この場所に。
はい。で、干潮や満潮というのは月や地球の引力とも関係している。そう言う仕事です。中原さんから提示されたテーマは『人間と物質展』だったので、写真でもいいのかと言うのが、僕はちょっと気になったんだけど、「いい」って言われました。(笑)。
そこがインスタレーション作家の難しいところですね。
ちょっと余談なんですけど、中原さんに電話で『人間と物質』と言う展覧会をするから参加して欲しいと言われ、分かりましたと言ったところ、神戸にすぐに来るって言うんです。それで一生懸命考えました。すでに〈陸と海〉のプランはあったんですけど、これにするかどうするか、中原さんに話さなきゃいけないだろうと思ったんです。そしていらっしゃったんですが、僕が何を出すか一切聞かない。何を出品する? ということを一切言わないんで、出品作品のプランについて聞かなくても「いいんですか?」って言ったら、「河口を選んだから、お前が好きなようにやればいい」と言う。『人間と物質』というテーマから河口龍夫はブレない。そういう確信が中原さんにあったのだろうと思います。僕なりに嬉しかったけど、聞いて欲しかったですけどね(笑)。僕だって色々考えて、時間のプロセスがあってこれに辿り着いたんですが。でも一切聞かれなかったという事を今思い出しました。
そういう方は珍しいですか?
今ね、中原佑介の美術批評の選集が出ているんです。全12巻ですけれど、今9冊出ていて、ゴールデンウィークに僕全部読み直したんです。中原佑介がなぜ僕の仕事に興味を持ったのか知りたかった。中原佑介の先生は湯川秀樹で、彼は理論物理をやっていた。芸術と物理の両方をやっていて、最後まで物理の本を読んでいたし、数学の本も読んでいましたね。中原さんが亡くなったんで、もう一度きちっと読み直したいと思って、読みました。あの当時は、たった一人のコミッショナーというのが日本で初めてだったんです。で、選んだ40名のアーティスト全員に、中原さんは会っています。会って作品を決めて。ただ、中原さんから聞いたんですが、ヨーゼフ・ボイスは選んでいたんですけど、ボイスとはどうしても会えなくて、参加をお願いすることはできなかったと言っていました。そういう意味では、例えば「人間と物質」というテーマに向かって芸術をまとめるとか、そういう形が今少なくなっている。
河西:
河口:
そうですね。後付けのテーマなども多い印象かも知れません。そうして力のある作品を集める、ということもあるのかも知れません。
そうして、僕が最初に国際展に出したのが、30歳だったんですよ。そのときに、現代美術というある1つの方向のなかに40名の作家がいて、僕は、漠然と同じ方向の考え方みたいなものがみえてくるんじゃないかって思っていたんですけど、40名の作家を見たらバラバラで(笑)。中原佑介の関心の幅がものすごく広いんです。その中に40名が全部スポッと入っていた。
《フェロ・ルストェ》
1997 ©︎ Panamarenko
Courtesy S.M.A.K., Museum of Contemporary Art, Ghent
Photo: Dirk Pauwels
The Aeromodeller (Zeppelin)
©︎ Panamarenko
Courtesy S.M.A.K., Museum of Contemporary Art, Ghent
河西:
河口:
例えば、永久運動*1ってありますね。物質が壁に当たって跳ね返ると摩擦でエネルギーが少なくなりますが、パナマレンコ*2という作家は、永久運動をまだ信じているようです。だから、それを原理として空飛ぶ円盤とか、色んな飛ぶものを作っているんです。でも実際は全然飛ばない(笑)。模型みたい。上野公園でね、羽ばたく鳥のおもちゃが売ってたんですよ。自作の展示会場でパナマレンコがそれを飛ばしてるんです。それを見て、ああもう何でもいいんだと、なんて自由なんだろうと思って(笑)。
レセプションも印象的でした。僕はあの時結婚してたのかな? 彼女と友達がいたんだけど、何となくレセプションは作家しか来てはいけないみたいな雰囲気だったんでひとりで行ったら、外国の作家は、もう友達から恋人から全部呼んでいたんです。僕も、あんまり主催者の言うことを聞かない方が良かったなと、あの時はすごく後悔しました(笑)。
そうして作家としての経験値を上げていったんですね。
うん、だから芸術ってすごく自由だなと感じましたね。
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*1外からの作用なしに永久に持続する運動。永久運動を生じる装置を永久機関という。人類の願望として古来種々の装置が考案されてきたが,その失敗の歴史のなかからエネルギー保存則などの成果が生み出された。3種類の永久機関がある。
https://kotobank.jp/word/永久運動-35823
*2
ベルギーの美術家。パナマレンコはアーティスト・ネーム、本名は非公表。アントウェルペン生まれ。1955~60年アントウェルペンの王立美術アカデミーで美術を学び、そのかたわら、同市の科学博物館に頻繁に出入りし、自然科学に関する幅広い知識を得る。60年、ピンホール・マシンの制作・発表によって作家活動をスタートさせるが、当初はハプニング志向が強かった。66年にはアントウェルペンに新設されたワイド・ホワイト・スペース・ギャラリーでハプニングとオブジェの展覧会を開催した。
https://kotobank.jp/word/パナマレンコ-1580759