内倉真一郎 個展『忘却の海』開催記念トークイベント

タカザワケンジ氏 × 内倉真一郎

日 時: 2022年6月3日(金)19:30〜

会 場: KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHY

登壇者: タカザワケンジ氏× 内倉真一郎(進行:河西香奈)

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〈6タイトル連続写真集について〉

本日はご来場いただきましてありがとうございます。現在開催しております内倉真一郎さんの個展『忘却の海』を記念してトークイベントを始めたいと思います。写真評論家のタカザワケンジさんにもお越しいただきました。どうぞよろしくお願いいたします。

今年の1月から毎月1冊、合計6タイトル連続で内倉さんの写真集を刊行していまして、まずはそちらの説明をさせていただきます。1月1日に1作目『Early Works 1: Street』を出版しました。こちらはタイトルにも「Street」とあるとおり、路上で撮影されたものを一冊にまとめています。こちらのシリーズの作品プリントをご覧になった方はいらっしゃいますか?

 

河西: 

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『Early Works 1: Street』より
©︎ Shinichiro Uchikura, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

観客: 

(ちらほらと会場で手があがる)
 

河西: 

さすがですね。次に、こちらも初期の作品ですが『Early Works 2: Portrait』です。主に人物を撮影したシリーズです。その後、3月に出版されたのが『佳子』。こちらは「佳子(かこ)」という少女に和服を着せて、メイクを施し撮影しているシリーズですが、この少女が独特の雰囲気を出していて、異世界にいるようにも見えてきます。4月には『犬の戦士団』を出したのですが、こちらはどちらで展示されていましたか?
 

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『Early Works 2: Portrait』より
©︎ Shinichiro Uchikura, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

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『佳子』より
©︎ Shinichiro Uchikura, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

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『犬の戦士団』より
©︎ Shinichiro Uchikura, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

今はないのですが、新宿のコニカミノルタ フォト・プレミオ*1で展示をしていました。ほかには、台湾で個展*2と、アートフェア*3に出展しました。

内倉: 

そうでしたね。このシリーズでは、犬の野生的な目線や瞬間を撮影されていました。5月に出版したのは『十一月の星』というご自身の息子を撮影したものです。産まれたばかりの姿を写していて、それがとても強烈です。こちらは第7回 EMON AWARDにも選出いただいていて、EMON Photo Galleryさんでも展示しています。その次に『Collection』というシリーズですが、こちらはすべて宮崎の街中に落ちていたものを撮影していたそうです。こちらをご覧になった方はいらっしゃいますか?
 

河西: 

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『十一月の星』より
©︎ Shinichiro Uchikura, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

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『Collection』より
©︎ Shinichiro Uchikura, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

昨日みてきました。品川のキヤノンギャラリー Sの上にあるオープンギャラリーで、今展示*4されていますよね。

タカザワ: 

そうですね。
 

内倉: 

東京写真月間 2022*5の一貫としてプログラムで選ばれて、展示しているということですよね。

タカザワ: 

今年の東京写真月刊の国内企画展のテーマが「地域との共生」で、その点でもマッチしているということで選出いただきました。今ご紹介した6冊のほかに、弊廊での個展を2年前に開催しまして、そこで展示したシリーズの写真集『私の肖像』も出ています。

これは京都の赤々舎さんから出しているポートレイトの作品集で、さまざまな方の何気ない仕草や表情を引き出すまでシャッターを切りつづけるという手法で撮影されたものですよね。どなたも普段は「見られたい自分」が自然と表出していると思いますが、このシリーズでは連写をすることによってそれを超えた表情を捉えていて、それがなんともずっと見てしまう魅力なんだと思います。

 

河西: 

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『私の肖像』より
©︎ Shinichiro Uchikura, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

 

〈『忘却の海』〉

河西: 

これらの作品を発表している内倉さんですが、元々7月にポートレイトシリーズの新作で展示を予定していたのですが、4月ごろに、もっといい作品ができたからそちらでも個展をしたいと内倉さんから連絡をいただき実現したのが今回の『忘却の海』です。タカザワさんは、昨日品川でも『Collection』をご覧いただいたと思いますが、このシリーズを見て率直な感想やご質問などありましたら伺えますか?

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個展『忘却の海』展示風景

©︎ Shinichiro Uchikura, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY, photo by Yoshiaki Nakamura

まずはすごく意外でしたね。僕のなかでは内倉さんはモノクロ写真の印象があるのですが、それはなぜかというと『十一月の星』という最初の展覧会がモノクロでしたし、『私の肖像』もモノクロ写真でしたので、そのようなクラシックなモノクロ主義がベースにある方だと思っていたのです。もちろん『Collection』などカラーのシリーズもありますが、でもコントラストが強い、黒みが強いモノクロ写真が多いですよね。日本の写真は伝統的に割と黒いものが多いんですよ。

一方で、アメリカの写真はグレートーンが主流で、たとえば『ニュー・トポグラフィクス*6』という1975年に行われた展覧会に出ている写真家たち、ロバート・アダムス*7や、ルイス・ボルツ*8などを見ていくとだいたいグレートーンですよね。
 

タカザワ:

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日本の場合は、細江英公*9さんですとか、土門拳*10さんあたりまで遡っても、どれも黒い写真が多いんです。森山大道*11さんもそうですよね。それで、細江英公さん辺りの1950年代後半ごろに活動していた「VIVO*12」という写真作家のエージェンシーがあるのですが、僕が内倉さんに抱いていたイメージというのは、そのころのクラシックで深みのあるモノクロ写真のイメージだったんです。

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ところが今回はグレートーンで、さらに物が細部まで写っていて、はじめて見たときに一瞬多重露光なのかと思うくらいでした。それまでの『Collection』シリーズでは、周りは真っ暗で、本当に写したいものだけが浮かび上がるように描いていましたが、今回は、画面全部に物が配置されていて全体を見るという、絵画の用語でいえば「オールオーバー」のような画面作りになっていることもあり、非常に意外だったんですよね。

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個展『忘却の海』展示風景

©︎ Shinichiro Uchikura, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY, photo by Yoshiaki Nakamura
 

 

〈『Collection』〉

今回の展示は『Collection』の発展形だということはプレスリリースで読んでいますが、どのように発展したのかをご本人からお聞きしたいなと思います。

タカザワ:

ありがとうございます。『Collection』というシリーズですが、僕は宮崎県の延岡市というところに住んでいまして、そこは市内から車で1時間半ほどかかり、かなりの地方なんですね。綺麗な海はたくさんあるのですが、地方なので東京とは違ってさまざまなものが落ちているんです。たとえば、歌舞伎町であれば、一晩経てばタバコの吸い殻や、下手したらコンドームなんかも落ちていたりします。でも清掃業者さんがあっという間に片づけてしまいますよね。地方の場合はそういったことがまったくなく、清掃されているのは公共施設の周辺だけです。そういった場所だけは役所がお金をかけて綺麗にするけれど、それ以外は一切手を掛けない。そういうなかで、ふと落ちているものを見つけたんです。

そのゴミと言われているものをどうやって撮っていこうかなと思ったときに、砂や埃などがたくさんついているので、まずはそれを綺麗に取って、黒い布の上に置いて標本のように正確に淡々と伝えていこうと思いました。僕はフィルムカメラをずっと使っていたのですが、カラーでいうとポジフィルム、リバーサルフィルム*13という言い方もしますが、あそこに近い感覚を持って撮影していました。要はポジフィルムは、ネガフィルム*14と違って一発勝負というのがあり、それに加えてカラーの出方は生々しさがすごく伝わっていくんです。そこに近い色彩感覚でこの「ゴミ」というものを美しく、いわゆるラストポートレートのような気持ちで撮っていったシリーズが『Collection』です。

 

内倉: 

なるほど。まず強調しておきたいのは、内倉さんは写真が上手いですよね。なぜ上手いのかというと、黒バックで撮影するのは一見簡単に見えるじゃないですか、だけど黒バックで撮影して、それをすべて同じ黒に揃えて、物がきちんと写っているというのは実は結構難しいことなんです。さらに、はじめてこの作品を見たときに、内倉さんは写真館をやっていらっしゃるからこれはスタジオでライティングを使って撮影をしたんだと思っていたら、「自然光で撮影」と書いてあったから非常に驚きました。天気などはやはり考慮されていたんですか?

タカザワ:

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『Collection』より
©︎ Shinichiro Uchikura, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

はい、そうですね。天気は曇りの日が実はベストで、なぜかというと綺麗に晴れていて直射日光が強く当たってしまうと、光と影ができてしまうからです。だからといってストロボを焚いて撮影すると嘘っぽくなってしまう。だから、太陽があって雲があったら、ストロボでいうとそこにディフューザー*15が掛かっている状態なんです。
 

内倉: 

光が広がってしまうんですね。

タカザワ:

そうです。だからハイライトも影もない状態で、より鮮明にそのゴミ達が見えるという状況を選んでいました。それと、自分の写真館に持って帰れないという理由はただひとつ、お客さんが嫌がるからです。
 

内倉: 

タカザワ:

ゴミですからね(笑)。

死んだものなんかを持って帰ったら嫁さんにめちゃくちゃ怒られますからね(笑)。だから黒い布を持って歩いて、ピンと来たらその場で撮って、撮影を終えたら次の現場へ行くという流れでした。
 

内倉: 

写っているものが、こんなものが落ちているのかという物ばかりですけど、よく歩いていたんですか?

タカザワ:

結構歩いていましたね。実は、おそらくこれが『Collection』シリーズの始まったきっかけという出来事がありまして、それは『十一月の星』というシリーズを撮影しているときでした。『十一月の星』では、赤ん坊の写真のなかに、宇宙から命の星が降り注ぐようなイメージでたんぽぽの写真を入れ込んでいるのですが、実はたんぽぽを撮影していたときに根元に変なものがついていたんです。それは赤い肉かなにかの謎の塊だったのですが、2018年に『十一月の星』を完成させるぞと思ってたんぽぽを撮りながら、その赤い謎の塊が気になって仕方なくて、それも同時進行で撮っていたんです。それがこの『Collection』の始まりでした。
 

内倉: 

(笑)
 

一同: 

タカザワ:

その謎の赤い物体は謎のまま撮ったんですか(笑)?

謎のまま撮りました(笑)。
 

内倉: 

これが写真の面白いところですよね。被写体がなんなのか分からなくても撮れるんですよ。たとえば、文章で書こうとすると「赤い物体」だけだと語ったことにはならないじゃないですか。これはなんだろうと考えて、きちんと突き止めないといけないのですが、写真は写っていればいいですからね。それを見た人が写っているものについて知っている可能性もありますし、知らなかったとしても想像を膨らませる楽しみがある。非常に開かれたメディアだなと思っていて、だからまずは直感ですよね。直感で見つけて撮るという、そこから『Collection』はスタートしたということですね。

タカザワ:

そのとおりですね。
 

内倉: 

​1   

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*1  フォト・プレミオ:コニカミノルタ株式会社の主催による写真の賞。1999年、写真制作意欲及び写真表現技術に富む若者に対し、作品発表の機会を提供すると共にその活動を奨励することを目的に創設された。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%88%E3%83

*2   Wonder Foto Dayキュレーター賞受賞展 「犬の戦士団」「十一月の星 」(2018年、台湾

*3   Wonder Foto Day(2017年、台湾)
*4   内倉真一郎個展「Collection」キヤノン品川オープンギャラリー1(2022年、東京)

*5   「東京写真月間」(The Month of Photography, Tokyo):写真文化の普及と発展を図るために社団法人日本写真協会が写真業界に呼びかけて催されている写真イベント

*6   ニュー・トポグラフィクス:1975年にジョージ・イーストマン・ハウス国際写真美術館で開催された展覧会。

*7   Robert Adams:アメリカ西部の変化する風景に焦点を当ててきたアメリカの写真家。
https://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Adams_(photographer)

*8   Lewis Baltz:1970年代後半のニュー・トポグラフィックス運動で中心となったヴィジュアルアーティスト、写真家。
https://en.wikipedia.org/wiki/Lewis_Baltz

*9   細江英公:日本の写真家。清里フォトアートミュージアム館長(初代)、東京工芸大学名誉教授、鎌鼬美術館名誉館長、文化功労者。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%B0%E6%B1%9F%E8%8B%B1%E5%85%AC

*10   土門拳:昭和時代に活躍した日本の写真家。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%9F%E9%96%80%E6%8B%B3

*11    森山大道:日本の写真家。大阪府池田市生まれ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A3%AE%E5%B1%B1%E5%A4%A7%E9%81%93

*12    VIVO:1959年7月から1961年6月まで存在した写真に関するセルフ・エイジェンシー・写真家集団。
https://ja.wikipedia.org/wiki/VIVO_(%E5%86%99%E7%9C%9F)

*13   ポジフィルム、リバーサルフィルム:現像の過程において露光・第一現像後、反転現像によってポジ画像(陽画)を得る構造をもつ写真フィルム
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%90%E3%83%BC%E3%

*14   ネガフィルム:被写体の明暗や色が反転した画像がつくられる写真フィルム
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8D%E3%82%AC%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%A0

*15   ディフューザー:ストロボなどの前に取り付けて光を和らげることができるアクセサリー。