出垣内 愛 個展
『遺す、遺さないの選択肢』
▼オープニングレセプション
11月20日(金)17:00〜19:00
□リサーチ協力
有楽町アートアーバニズム YAU、三菱地所株式会社
□制作協力
株式会社nicodesign、株式会社あずま工房 東弘一郎、
アプリュスセー合同会社 入澤日彩子、税理士 鈴木佳美、
弁護士 栗原亮介、建築家 諌山俊之
□寄稿
宮澤佳奈(金沢21世紀美術館 学芸員)
■会期
2026年11月17日(火)〜 2026年12月5日(土)
火曜日〜土曜日 12:00〜19:00 ※最終日〜17:00
(日・月・祝 休廊)
■会場
CADAN大手町
〒100-0004 東京都千代田区大手町2-6-3
銭瓶町ビルディング1階
■企画
KANA KAWANISHI GALLERY

2026年|カーボランダム、油瓶、和紙、フライドチキンの骨、亜鉛華|10 × 250 × 250 mm © Ai Degaito, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

2026年|カーボランダム、油瓶、和紙、フライドチキンの骨、亜鉛華|10 × 250 × 250 mm © Ai Degaito, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY
Glaze_5
2026 | shelf board (carborundum), oil bottle, washi paper, fried chicken bones, zinc white | 10 × 250 × 250 mm
© Ai Degaito, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY
CADAN大手町では、2026年11月17日(火)から12月5日(土)まで、KANA KAWANISHI GALLERYの企画による出垣内 愛 個展『遺す、遺さないの選択肢』を開催いたします。
陶芸とゆかりの深い奈良県明日香村に生まれ育った出垣内は、10代から釉薬の研究を続けてきました。各地の窯元や窯業施設で目にした、廃棄された陶器が山のように積み重なる光景。高温で焼かれた土は、もとの土には還らない。その強さと不可逆性に、出垣内は、ものをつくり、使い、手放していく人間の営みの業の深さを見つめてきました。
一方で、出垣内を制作へと突き動かしてきたのは、釉薬そのものへの尽きない愛着です。植物や食卓に残った骨、手紙や衣服など、身の回りのさまざまなものを燃やし、その灰をもとに釉薬をつくる。素材の配合や熱の加え方を探り、思いがけない色や質感が生まれる過程を繰り返し確かめる。ものが別の姿へと変容する可能性への探究は、消えていくはずのものを留めること、そして、何を残し、何を残さないかという選択に、人はどこまで関わることができるのかという問いへとつながっています。
本展では、こうした出垣内の実践を、〈幾度〉〈釉薬〉、そして新たに取り組むジュエリーの作品 〈Heart〉を通して紹介します。
〈幾度〉は、素材に熱を加える行為を繰り返し、わずかな条件の違いから生じる釉薬の多様な表情を引き出す作品です。予期しなかった変化を観察し、再びその条件を探る過程には、作家が制御できることと、その意図を超えて物質が変化することとの往復があります。今回は、有楽町アートアーバニズム YAUおよび三菱地所株式会社の協力により、CADAN大手町が位置する大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアで働く人々の日常から集められた、役目を終えたものを素材とする新作を発表します。
人々の身体を養い、午後の仕事を支えた食事のあとに残る弁当容器。あるいは、個人の情報が記された書類。出垣内は、そうした身近なものに、誰かが生き、働き、時間を重ねた痕跡を見つめます。都市を行き交う無数の人々も、その一人ひとりは固有の記憶や物語を持つ存在です。役目を終えたものを灰にし、釉薬へと変えることで、もとの姿や文字が失われたあとにも、その人の存在の痕跡を、別の色や輝きとして留めようとしています。
〈釉薬〉では、窯の棚板に用いられる耐熱性の高いカーボランダム板を地に、釉薬そのものを鑑賞の対象として提示します。この板は、砕いて釉薬の材料として再利用することもできます。器を覆うものとして親しまれてきた釉薬の、色の重なり、溶け合う境界、凹凸や光沢。その一つひとつに目を向けることで、素材が熱を受けて変化した痕跡が立ち現れます。焼成を支える道具の上に釉薬自体を生み出すこの作品は、長年の研究を通して出垣内が見つめてきた、物質の表情を伝えます。
さらに本展では、「遺す」と決めたものを〈Heart〉という小さなかたちに凝縮し、身につけるジュエリーとして発表します。大切な思い出の品や、誰かと過ごした時間を宿すもの。変化し続ける世界のなかで、それでも手元に残しておきたいと願うものを選び、その灰から生まれた釉薬を、身体に寄り添う作品へと仕立てます。大切な人の遺骨を作品として残す取り組みも、この実践の延長にあります。
出垣内にとって、身につけられるという性質は、「遺すこと」を日々の暮らしのなかで引き受けるためのかたちでもあります。残したものとともに移動し、触れ、同じ時間を過ごしていく。その試みは、古くから人が装身具に託してきた、記憶や祈りを身近に携えたいという思いにもつながっています。
土に還らないものを生み出すことへの畏れと、かけがえのない存在を留めることの尊さ。その両方を抱えながら、出垣内は、素材の変容を通して「遺す、遺さないの選択肢」を問い続けます。釉薬の豊かな表情と、その一つひとつに託された選択を、ぜひ会場でご覧ください。
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本展にあわせて、思い出の品や遺骨などを素材とする作品のオーダーメイド制作についても、ご相談を承る予定です。詳細はKANA KAWANISHI GALLERYまでお問い合わせください。
![]() Heart2026 | 灰(送った手紙、食卓の秋刀魚の骨、炭化ケイ素)、純銀 [ash (sent letters, Pacific saury bones from meals, silicon carbide), pure silver] | 6 × 9 × 13 mm | © Ai Degaito, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY | ![]() Heart2026 | installation view from the group exhibition “Why, and How” (2026, Paichu Gallery) | © Ai Degaito, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY, photo by Keiko Chiba |
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![]() Glaze_8 [detail]2026 | カーボランダム、和紙、窓ガラス、工芸ガラス、真珠貝の殻、クロム、卵の殻 [shelf board (carborundum), washi paper, window glass, art glass, mother-of-pearl, chrome, eggshells] | 10 × 250 × 250 mm | © Ai Degaito, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY, photo by Keiko Chiba | ![]() installation view from Kazuto Imura, Ai Degaito “battery” (2026, KANA KAWANISHI GALLERY) | © Ai Degaito, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY, photo by Keiko Chiba |
アーティストステートメント
各地の窯業地域を巡るなかで、廃棄された陶器の山を目にしてきた。
そこには、人の生活の証があると同時に、変化せず残り続けるものへの恐ろしさもあった。
私は、釉薬自体を作品にすることで、形を変えながら保存することを試みている。
釉薬は、再び熱を加えれば溶け、流れ、別のかたちへと変わることができる。
保管しながら形を変え、循環するしなやかな媒体でもある。
何かを残すとき、そのかたちを永遠に固定する必要はない。
残したものが、また別の姿へと変わっていく可能性も、ともに残しておきたい。
出垣内 愛
時間の錬成
出垣内愛は、「釉薬」を作品とするアーティストである。
陶磁器の表面を覆うこのガラス質の層は、やきものの歴史とともに世界的にも日本でも長い歴史を持つ。しかしその成り立ちを理解し、みずから調合まで手がける職人やアーティストはほとんど存在しない。釉薬の製造会社との共同研究まで行う出垣内は、かなり例外的だ。そこに、奈良県の伝統工芸として知られる「赤膚焼(あかはだやき)」の産地で育った彼女の境遇を重ねることは容易い。だが、その関係性はたんに伝統の継承か、そこへの反発かといった単純なものではない。
出垣内が釉薬を定着させるためにしばしば用いるのは、窯での焼成時に使われる「棚板」だ。ふつう「本体」と見なされる土のやきものが不在であり、普段はその表面の一部として見られる「うわぐすり」が、焼成のプロセスを支える棚板にくっついている。出垣内の作品は、その不在を通したやきものへのアンチテーゼなのだろうか?じっさい彼女は、一度焼成されたやきものが何百年、何千年を経ても土へ還らないことや、日本各地の産地で陶土が底を尽きる日がそう遠くないことを、幼い頃からの実感を伴って語る。やきものを作る不可逆性なプロセスとその産物への、恐れと魅惑が混在している。再び加熱することにより、かたちを変えることのできる釉薬の性質に、そうしたアンビエンスが共鳴しているのかもしれない。
しかし出垣内の作品には、そうしたロジックをも超えた釉薬への執着が感じられる。それを紐解く手がかりは、「遺す、遺さないの選択肢」というタイトルにもありそうだ。出垣内の作品には、夕食で食べた鳥や魚の骨、個人的な手紙など、生活に関わるものを灰にし、電気窯で高温に加熱して釉薬をつくるシリーズがある。草木の灰を用いる灰釉という技法があるが、出垣内の焼成対象となるものの幅はその比でない。食べたものをできるだけコンポストにしようとする人もいるが、彼女は身の回りものものをできるだけ火葬しようとしているのだろうか。出垣内は、遺灰から釉薬を作り、それらを使ったアクセサリー制作にも取り組んでおり、作品としての展開も検討しているという。保管しながら形を変え、循環するしなやかな媒体でもある。
コンポストが有機物を土へ還し、循環を生む営みならば、灰を釉薬にすることは、その循環から何かを取り出し、別の時間へ移すことともいえる。釉薬の色を左右するのは、素材に含まれる金属の種類や量であり、それを引き出すには、温度を調整する科学的知識と実践の蓄積が必要になる。出垣内は、身近なものを元素の組成として捉える一方で、それがかつて何であったかを、作品情報として詳細に残している。
燃やすことで、ものは元の姿を失う。それでも、その来歴まで消し去られるわけではない。灰にすることが時間を加速させることだとすれば、ガラス化させることは、その先に別の持続を与えることなのだろう。遺すことと遺さないことは、ここでは互いに入り込んでいる。手紙を燃やしても、言葉が託されていたという事実は残り、食事の骨は、身体の外で新たな色を得る。
出垣内が錬成するのは、生活の痕跡を、元の姿のままではないかたちで未来へ手渡す時間である。棚板の上にとどまる釉薬は、何かが失われた証しであると同時に、なお残り続けるものの姿でもある。その光沢を前に、私たちは、何を、どのようなかたちで遺したいのかという選択へと立ち戻る。
金沢21世紀美術館 学芸員
宮澤 佳奈
アーティストプロフィール
出垣内 愛(でがいと・あい)
奈良県明日香村出身。大学や各地の窯業施設で陶磁器・材料熱化学を学ぶ。存在の痕跡を「残す」「残さない」という選択肢をものに与えることをテーマに、植物や骨、生活廃棄物や遺品など、人とさまざまな距離感を持つ素材を燃やし、その灰のみで釉薬を精製。「土に還らない永遠の恐ろしさ」と「記憶装置としての尊さ」という相反する感覚を抱えつつ、個人の記憶をかたちを変えながら永く留める「アーカイブ」を追求している。
近年の主な個展に「誠実な記憶、釉薬」(2025年、Suzusan Galerie Raum、愛知)、「And you」(2024年、JITSUZAISEI、大阪)、「聲」(2023年、JUU arts & stay by FIGYA、大阪)など。
主なグループ展に「どうして、どのようにして」(2026年、アートかビーフンか白厨、東京)、井村一登との二人展「battery」(2026年、KANA KAWANISHI GALLERY、東京)、「BankART アライブ!展」推薦枠(2025年、BankART Station、神奈川)など。
2026年、有楽町アートアーバニズム YAUの「YAU ARTIST STUDIO」にて滞在制作。xLINK 丸の内パークビル、新東京ビル、ジオタワー大阪十三、株式会社乃村工藝社 未来創造研究所などのコミッションワークも手がける。
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