長谷川寛示 個展
『 矩と不矩|Two Temporalities』
▼オープニングレセプション
10月25日(土)17:00〜18:00
■会期
2025年10月25日(土)~ 2025年11月22日(土)
水曜日〜土曜日 13:00〜18:00
(日・月・火・祝 休廊)
※臨時オープン:
11/5-6 [Art Week Tokyo VIP DAY] 11:00-18:00 *基本的に招待者のみ
11/7-9 [Art Week Tokyo 一般会期] 10:00-18:00
■会場
KANA KAWANISHI GALLERY
〒135-0021 東京都江東区白河4-7-6
※ギャラリー前に車をお停めいただけます
■主催
カナカワニシアートオフィス合同会社

2025 | mixed media (bayberry wood, gold leaf, copper leaf, copper wire, UV print on panel) | 500 × 300 × 100 mm | © Kanji Hasegawa, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

2025 | mixed media (bayberry wood, gold leaf, copper leaf, copper wire, UV print on panel) | 500 × 300 × 100 mm | © Kanji Hasegawa, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY
decay, remains (2025.9.16-09:55)
2025 | mixed media (bayberry wood, gold leaf, copper leaf, copper wire, UV print on panel) | 500 × 300 × 150 mm
© Kanji Hasegawa, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY
KANA KAWANISHI GALLERYは、2025年10月25日(土)より長谷川寛示個展『矩と不矩|Two Temporalities』を開催いたします。
東京藝術大学美術学部彫刻科の在学中より、親しんできたパンクロックカルチャーや、概念を形象に落とし込む現代アートの制作過程にも通じるものとして仏教への興味を募らせた長谷川は、曹洞宗大本山永平寺での修行を経て僧侶になり、近年は還俗し制作に集中するなかで、その思想と生き方を反映させる作品で、京都市京セラ美術館でのグループ展に参加するなど、国内外で注目を集めているアーティストです。
弊廊で2年振りの個展となる本展では、予てより長谷川の肝要な制作コンセプトであった「ふたつの異なる時間感覚」に着目し、彫刻を重層的に時間を経験しうるものとして提示いたします。
では長谷川の言う「ふたつの異なる時間感覚」とは、どのようなものなのでしょうか。
一つ目は、「身体的時間感覚(狩猟採集社会的な時間感覚)」。人類の歴史の大部分を占める狩猟採集時代において、人は獲物や自然環境との物理的な距離を感知し、それに伴うエネルギー消費を身体感覚として刻み込んできました。この遠近感は単なる空間認知にとどまらず、未来の行動や出来事を予測し、計画するための時間感覚とも結びつきます。
二つ目は、「仏教的時間感覚」。仏教では、時間は直線的な過去→現在→未来という流れではなく、「いまここ」の連続、すなわち刹那刹那の変化として捉えられています。「無常」「縁起」「空」などの基本概念は、すべてこの非直線的な時間理解と深く結びついています。
仏教学者・奈良康明氏は、仏教における悟りに向けた修行のプロセスを禁煙になぞらえ、「禁煙を決めたその瞬間に、すでに禁煙者である」と語ります。禁煙とは、未来のある時点を目指すのではなく、「いまこの瞬間」が全体として完成されているという逆説的な時間感覚にあるということです。あるいは、ロックバンドザ・クロマニヨンズの真島昌利氏は、自身がロックスターになった瞬間は「初めて鏡の前でCコードを鳴らした瞬間」であったと語ります。
禁煙の話も、ギターの話も、「いま」の強度が過去や未来の解釈を変えるという点で共鳴します。これらは、仏教で言うところの「いまの連続」としての時間観──過去も未来も分離せず「いま」が全てを包含し、重層的に存在する、という感覚と通底しているのでしょう。

2024 | mixed media (bayberry wood, gold leaf, copper wire, UV print on panel) | 1200 × 800 × 350 mm | © Kanji Hasegawa, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

2024 | mixed media (bayberry wood, gold leaf, copper wire, UV print on panel) | 1200 × 800 × 350 mm | © Kanji Hasegawa, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY
decay, remains (2024.9.9-14:24) (detail)
2024 | mixed media (bayberry wood, gold leaf, copper wire, UV print on panel) | 1200 × 800 × 350 mm
© Kanji Hasegawa, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY
さて長谷川は、「身体的時間感覚(狩猟採集社会的な時間感覚)」と「仏教的時間感覚」は、別個の時間感覚でありながら、身体に重層的に内在すると指摘しており、さらに彫刻というメディアは、この二重構造を身体的に実感できうる稀有な表現形式であると語ります。
彫刻作品が目の前にある。多大な時間をかけて彫刻家がつくりあげた彫刻作品であり、完成以降も長い時間経過を経て在り続けてきた作品でもある。彫刻家兼鑑賞者である長谷川は、そこに立ち現れる時間の重みに、刹那的に感動すると言います。
銀箔や銅箔をあしらったパネルと彫刻が組み合わさった〈decay, remains〉は、彫刻の持つ時間の二重構造をひときわ実感できる作品です。銀箔や銅箔があしらわれたパネルには、サイアノタイプ(鉄塩と現像液を塗った紙を日光に当てると青い像として定着できる古典的写真技法のひとつ)で記録された彫刻が完成した日の影が、UVプリント(紫外線を使ってインクを瞬時に硬化させる特殊な写真技法)で定着されており、瞬間的に彫刻と対峙する鑑賞者の前に現れます。時間を内包するその彫刻は、古典技法・最新技術・手仕事等の多層的な時間軸を抱えており、同時に、銀箔や銅箔は酸化により、さらに未来においても経年変化を重ねていきます。
鑑賞者は、遠近感や移動により「身体的時間」を感じると同時に、質感や制作の痕跡を通じ、過去の時間を「いまここ」に呼び戻します。鑑賞者と作品の間には、時間を超えた身体的なコミュニケーションが成立し、過去・現在・未来の重層的な時間経験が共有されるのです。
目的を持って移動する身体と、今にとどまる身体。長谷川が「時間を超えたコミュニケーション」として意欲的に取り組む最新作に、是非ご期待ください。
アーティストステートメント
矩と不矩
—その意味と時性との関連について—
「矩」は本来、直角を測る道具を指し、
そこから「秩序」や「規範」の象徴として使われるようになった。
「不矩」はそれに従わない、逸脱した状態を意味する。
私はこの対を、時間感覚の比喩として借用している。
「矩」は遠近法的な世界観に通じる。
時間は過去から現在、未来へと一方向に流れ、因果的に積み重なっていく。
「不矩」はその反対で、
方向を持たず、始まりも終わりも定かでない、
停滞や反復、逸脱を含む非線形の時間感覚である。
この二つの時間は対立するものではなく、重層的に身体に内在している。
制作という内証が他者との対話へと開かれていくように、
この異なる時間感覚もまた互いに絡み合いながら、
作品という時間を形づくっていく。
長谷川寛示
アーティストプロフィール
長谷川寛示(はせがわ・かんじ)
1990年、三重県生まれ。2014年東京藝術大学美術学部彫刻科卒業、2016年同大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。同年、曹洞宗大本山永平寺にて修行を経て僧侶となる。
主な個展に『decay, remains』(2023年、KANA KAWANISHI GALLERY、東京)、『My Sútra』(2019年、KANA KAWANISHI GALLERY、東京)、『ALLDAY TODAY』(2018年、Gallery HIROUMI、東京)、『RESEARCH&DESTROY』(2015年、CC4441、東京)など。グループ展に『AMATEUR vol.3』(2024年、H BEAUTY&YOUTH、京都)、『跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー』(2023年、京都市京セラ美術館、京都)、『The Age of Not Believing』(2023年、銀座 蔦屋書店、東京)、『Têmporas/テンプラ KUROOBIANACONDA #4』(2022年、Sokyo Lisbon Gallery、ポルトガル)、『AS SEEN BY』(2022年、BA-TSU Art Gallery、東京)、『Some kinda freedom』(2021年、KANA KAWANISHI GALLERY、東京)、『CC NIGHT -PLAY ANARCHY-』(2015年、CC4441、東京)など。
受賞歴に「sanwacompany Art Award / Art in The House 2019」ファイナリスト選出、「前橋アートコンペライブ2012」秋元雄史賞など。
>> 日本語PDF
>> English PDF
