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小松敏宏個展

『トポフィリア(場所愛)—ジャパニーズ・ハウス』

 

 

▼オープニング・レセプション

2020年1月25日(土)19:15-20:00

*どなたさまもご自由にお立ち寄りください

■会 場  

KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHY

〒106-0031 東京都港区西麻布2-7-5 ハウス西麻布 5F

TEL 03-5843-9128

 

■会 期               

2020年 1月25日(土)~  2020年2月 15日(土)2月 22日(土)まで会期延長

火〜金 13:00-20:00|土 12:00-19:00

(日・月・祝休廊)

▼トークイベント

日 時:  2020年1月25日(土)18:00〜19:15(開場 17:50)

場 所:  KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHY

      〒106-0031 東京都港区西麻布2-7-5 ハウス西麻布 5F

登壇者:  中村浩美氏(東京都写真美術館)

      小松敏宏(アーティスト)

■ トークアーカイブ ■

■登壇者プロフィール

 

中村浩美(なかむら・ひろみ)

東京都写真美術館にて『私のいる場所 Absolutely Private』(2006年)、『ブラッサイ』(2005年)、『新花論』(2004年)、『PARIS+KLEIN』(2004年)、『幸福論』(2003年)、『NY SEP11』(2002年)、『メディアローグ』(1998年)、『ヴィム・ヴェンダース:トラベローグ』(1998年)、『ユリシーズの瞳』(1997年)等、多数の展覧会を企画。ドイツ、ベルギー、オランダ、イタリア、ラトヴィアなど海外の教育機関や美術館での講演や展覧会企画も手がける。

Agano House, Otsu City

from the series Japanese Houses

2019 | lambda  print | 910 × 740 mm | ©︎ Toshihiro Komatsu, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHYは、2020年1月25日(土)より小松敏宏個展『トポフィリア(場所愛)—ジャパニーズ・ハウス』を開催いたします。本展では、小松が1997年より20年以上に渡って撮り続けている〈ジャパニーズ・ハウス〉を、個展形式で一挙に展示いたします。当シリーズの東京での展示は、東京都写真美術館のグループ展『日本の新進作家 vol.2:幸福論—小松敏宏・蜷川実花・三田村光土里』(2003年)以来、実に17年振りとなります。


 

〈ジャパニーズ・ハウス〉は、小松が拠点としてきた静岡、東京、滋賀、そして京都の「家族」と「家屋」をフォトモンタージュ/フォトコラージュし、類型学的に撮りためてきた作品です。家と、その家に住まう家族をモデルに撮影し、住人の「顔」部分に彼らの居住する「家」をフォトモンタージュ/フォトコラージュした作品群は、アウグスト・ザンダーのポートレートや、ベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻の給水塔シリーズに代表される「タイポロジー・フォトグラフィー」* が意識されており、同じ種類の対象を被写体とした写真を集めることで、イメージ同士の差異や、複数のイメージの集積から見えてくるものを探ります。

 

また展覧会のタイトルに冠された「トポフィリア」は、イーフー・トゥアン(b. 1930、中国系アメリカ人、ウィスコンシン大学マディソン校名誉教授、現象学的地理学研究者)の提唱する「環境と人間との情緒的なつながり」を表す概念として提示された言葉です。「人間と環境の本質的な関係」を導き出す概念として、建築・都市計画・自然・環境論などの見地から欧米圏の研究者たちに多大な影響を与えた言葉ですが、日本語では「場所愛」とも訳され、人々が「場所」に対して抱く、潜在的な意識の深さを表す言葉としても知られています。

 

人と家族、住まいと建築、そしてその周辺環境。20年以上に渡る時間軸でシリーズ制作を続け、様々なスケールを内包しながら、東京では初の個展形式で17年振りに本シリーズが展示されるこの度の貴重な機会を、是非お見逃しなくご高覧いただけますと幸いです。

* https://artscape.jp/artword/index.php/タイポロジー・フォトグラフィ

同じ種類の対象を被写体とした写真を集めて、イメージ同士の差異や、複数のイメージの集積から見えてくるものを探ろうとする写真表現    のこと。「タイポロジー」は「類型学」の意。ドイツの写真家、ベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻の作品が有名である。

アーティストステートメント

Japanese Houses 1997-2019

 

日本では、「ウチの人」「ウチの者」と言うように、ウチとは家屋(建築)だけを示すのではなく、その家屋に住む人=家族も同時に意味する。1997年の春、私の家族が地元の大工によって建てられた新しい家に引っ越した際に、日本人と家との関係について興味をもち始めた。ジャパニーズ・ハウス(1997年以降継続)は家族のアイデンティティーについての作品である。作品は複数の日本の家族の肖像とそれらの家族によって建てられた住宅のモンタージュによって構成され、完成されたイメージは日本人の持ち家にたいする強い執着と願望を表現する。背景から切り取られた家の写真は、家族の頭部に張り付けられ、仮面となり家族成員の個々のアイデンティティーを隠蔽するとともに、家族全体の統一したアイデンティティーとなる。つまり家は家族の顔になる。家屋と家族の肖像とが結合してできたシュールレアルなイメージは、「アントロポモルフィズム」(擬人観)となり、建築と人体との類似性を探る。

 

フォトコラージュ/フォトモンタージュは、バウハウスやロシア構成主義、シュールレアリズムの作家達によって主観的で複雑なイメージの構成を目的として試みられた技法であった。ジャパニーズ・ハウスは技法的にはフォトコラージュ/フォトモンタージュであるが、内容的には戦前ドイツの肖像写真家であるアウグスト・ザンダーと、戦後ドイツの写真家であるベルント&ヒラ・ベッヒャーのタイポロジー(類型学)を意識した作品である。したがって「ザンダー(人)+ベッヒャー(建物)」と言える。最初のジャパニーズ・ハウスを白黒フィルムで撮り始めたのも、ザンダーとベッヒャー夫妻の白黒写真による客観的なタイポロジー(類型学)に関心を寄せていたからだ。実際ザンダーとベッヒャー夫妻の写真を流用してモンタージュした習作を前もって試み、人と建物の組み合わせの効果をテストした。

 

丁度その頃、写真技法はウェット(フィルム)からドライ(デジタル)へと急速に移り変わろうとしていた。1997年の初夏にアメリカのボストンから一旦帰国し、白黒フィルムと銀塩プリントの最後の作品になるかもしれないという思いで、実家のある浜松市西部で撮影を始めた。当時私が暮らしていたアメリカの郊外では、住宅はセカンドハウスでなければ、施主が注文住宅として建てたりするものではなく、購入後に外装を自分の好みのカラフルなピンク色や黄色で塗装したり、装飾を施したりする程度であり、原型はデベロッパーによって開発され建設された同一の建て売り住宅である。当時私が住んでいたアメリカと日本の郊外住宅の違いに気づき、より施主の嗜好が住宅の設計に反映され、洋風/和風/和洋折衷といった様式のバリーション豊富な日本はこのシリーズに好都合であると考えた。なにしろ日本人は家と場所への執着が強い。撮影は実家から始まり、親類縁者、私の家族や友人と知人、店舗付き住宅から寺院まで、幅広い協力者によって、家と家族が結合したバリエーション豊かなタイポロジー(類型学)となった。

 

白黒バージョンは、白黒フィルムと銀塩プリントによる豊富な階調と柔らかい調子、家の輪郭は背景からナイフで丁寧に切り抜かれて、家族写真の顔面上に家のプリントを直接貼付けたコラージュが大胆である。撮影は家と家族を正面のアングルから狙っただけでなく、斜め横から撮影することも試みて、正面性だけでなく奥行きも感じさせた。これはカラーバージョンになってからの背後からの撮影へと繋がるものであった。

 

2002年に京都で暮らし始めてから、私はカラーでジャパニーズ・ハウスを再開した。技法的にはドライ(デジタル)に移行させ、画像データからのデジタル銀塩出力を用いてプリントを大判化させた。白黒の濃淡によってクラシカルで親密な印象を感じさせる1997年バージョンとは対照的に、デジタルのカラーバージョンは色彩の鮮やかさと即物的な細部の描写、大判化という点でより現代的である。2002年の時点では、白黒の時と同じく撮影地は浜松市西部でカラー化し直すように始めたが、最終的には東京にも撮影場所を広げ、近年は京都市や大津市といった現在の私の居住地周辺で撮影している。浜松市のような昔ながらの田舎の家が多く残る、大都市から離れた地方都市と比べ、京都市で最近撮影された住宅と住人は都会的に洗練されて見える。家は家族を映し出すだけでなく、建てられた土地の自然的、文化的環境も反映している。実際、家族の背景として写っている景観は、その家の庭や周囲の環境であり、ジャパニーズ・ハウスによって私は、人と建築と周辺環境の関係性を探る。

 

—小松敏宏

アーティストプロフィール

小松敏宏(こまつ・としひろ)

1966年、静岡県浜松市生まれ。京都精華大学教授。1993年、東京藝術大学大学院美術研究科修了、1999年、マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院建築学部修了。主な個展に『TOSHIHIRO KOMATSU』(2009年、ウィンブルドン芸術大学ギャラリー、イギリス・ロンドン)、『サナトリウム』(2006年、遊工房アートスペース、東京)、『透視 2005.9.21』(2006年、galerie16、京都)、『クイーンズフォーカス03:隣接する空間』(2000-2001年、クイーンズ美術館 、アメリカ・ニューヨーク)、『Special Projects Fall 1999』(1999年、MoMA PS1、アメリカ・ニューヨーク)、など。グループ展・芸術祭に『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015』(2015年、新潟)、『On the Exhibition Room』(2015年、特定非営利活動法人キャズ、大阪)、『島からのまなざし なぜ今、アーティストは島へ向かうのか』(2014年、東京都美術館、東京)、『瀬戸内国際芸術祭2013』(2013年、香川)、『幸福論』(2003年、東京都写真美術館、東京)など。2020年2月29日(土)より、清澄白河・KANA KAWANISHI GALLERYにて個展『Aperture—眼差しを穿つ』を開催。

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